退廃的美学、独特の哀しみと詩情に溢れる幻想的な吸血鬼映画。
2016年3月30日に日本でレビュー済み
https://www.amazon.co.jp/-/en/gp/aw/review/B07B64T784/R26AIEBP9UNV4R
ジャン・ローラン監督による長編映画第三弾で、シュルレアリスムの吸血鬼映画(1970年製作)。
<「Le frisson des vampires/Thrill of the Vampires」(=ヴァンパイアの震え)、邦題「催淫吸血鬼」>
1、2作目とは異なる趣向を凝らしたローランの放つ吸血鬼映画路線第三作目の傑作。
<ローランの手掛けてきた作品中、本来の吸血鬼と近い特徴を持つ最初の作品。>
十字架信仰を恐れ、太陽光を浴びることを避けるなど、古典的な吸血鬼の約束事を守り、
尚且つ斬新・奇抜な趣向を凝らした演出効果が続々登場する一編。
ヒッピー・ムーブメントを背景としたサイケデリック・ブームを取り入れ、耽美的な視点から美を追求する。
ミストやスモークを併用し、独特の照明効果に美しい夜を彩どる視覚的なライトモチーフ、
幻想的な装飾が施された異様なムードの漂う美術セットも素晴らしく、不思議な陶酔感が味わえる。
新婚旅行の最中、新郎アントワーヌと新婦イーズの二人は、イーズの従兄弟が住む古城を訪れる。
が、城に向かう途中、道で出会った一人の女性から衝撃的な話を聞かされたばかりだった。
従兄弟は既に亡くなっている、ということだったらしい。イーズは、まだ半信半疑の状態だった。
城に到着した二人を出迎えたのは、奇妙な雰囲気を持つ黒髪の少女と金髪の少女(下女)だった。
彼女達の話によると、従兄弟のヘルマンとウィリアムは、イーズに会うことを楽しみにしているらしい。
二人は別々の部屋へと案内された。それはある儀式のため、周到に用意された巧妙な罠であった...。
幻想と退廃と官能が交錯するアーティスティックなエロスを追求し、吸血鬼の内面世界を象徴的、
かつ寓意的に表現した快心の1本で、アヴァンギャルドな精神が奇妙に融合した作風となっている。
<以下、ネタバレ含む。>
目まぐるしく変化する奇妙なアングルショットを始め、絵画的構図を意識した斬新なカメラワーク、
派手な原色や蛍光色を多用したサイケデリックな映像、ダダ・シュルレアリスムの流れを汲む、
超現実的な視覚世界、そして人間の内面に潜む本能的な欲望と狂気に焦点を当てて描いた作品。
奇妙な気怠さが漂う不思議な雰囲気の中、元吸血鬼ハンターだったヘルマン(ミシェル・デラアエ)と、
ウィリアム(ジャック・ロビオレ)は、文学的知識を披露する。奇妙な理屈を主張する変態哲学を語る。
愛人を共有するほど実に偏執的な関係に置かれたコンビであり、兄弟の絆は深いものだった。
金髪のヘルマンを演じたミシェル・デラアエは、前作で崇高なミュータントを好演した役者である。
今回は、1960年代後半から70年代前半の時期を象徴するフリー・セックスの提唱者として、
特異でユニークなヒッピー・ヴァンパイア(吸血鬼)という人物(キャラ)を見事に怪演している。
兄弟二人の愛人だったイザベル(ニコール・ナンセル)は、冒頭シーンの女性である。
軈て城におびき寄せられ、レズビアン・ヴァンパイアのイゾルド(ドミニク)に惨殺されてしまう。
先の尖ったニップルカバーで、抱きつき瞬殺する奇怪な美とエロスに彩られた衝撃的シーン。
城の周囲を変幻自在に徘徊する悪の親玉、女吸血鬼イゾルド。
従兄弟を吸血鬼にした張本人で、吸血鬼城を仕切る女主人で、尚且つ狡猾な策士家である。
常に冷淡な態度を崩すことなく、目的の為には手段を選ばない冷酷非情で、好戦的な性質だ。
イゾルドがイーズに接触する際、意外な場所から、驚くべき方法を使い、神出鬼没に出現する、
という数々のシーンは、ローランの豊かな発想力、ユニークな着眼点、独自の表現力と言える。
本作で映画デビューを飾ったイーズ役サンドラ・ジュリアンの一際輝く星のような美しさ。
ウエディングドレス姿で古城を歩く初登場シーンの退廃的な美貌と妖艶な雰囲気に魅せられる。
本編では、官能的な彼女の美しい裸体を惜しげもなく披露している。光る原石として、
彼女を見出したローランの巧みな演出が光る。<ジェス&ミランダのコンビを彷彿とさせる。>
寝室や墓場で、イーズがイゾルドに吸血される情景は、幻想絵画的な美しさを湛えている。
特筆すべきは、全裸姿のジュリアンの背中が、大きく仰け反るシーンの超絶美麗な描写である。
ローランお気に入りの(双子の女優の一人)マリー=ピエール・カステルも下女役として登場する。
箸休め的なポジションだが、インパクトは割と強い。本編では、最後の最後まで予断を許さない、
というストーリー展開の鍵となるキャラを妖しく演じており、全裸のレズシーンまで披露している。
新婚であるにもかかわらず、妻との初夜を邪魔され、愛情までも奪われた挙句、最終的には、
妻を寝取られてしまうという悲惨な役回りだったアントワーヌを演じたジャン=マリー・デュラン。
濃いキャラに終始翻弄されっぱなしであったが、下女に知恵をつけた現実主義者だった。
が、宿命的呪縛から逃れられず、愛の破局、愛の崩壊、愛の犠牲となり、絶望感に打ちのめされ、
海辺で絶叫するラストシーンは秀逸だ。従来の怪奇映画と一線を画す独特の世界を作り上げた、
ローランの手腕が冴え渡る珠玉の傑作に仕上がっている。
<「Le frisson des vampires/Thrill of the Vampires」(=ヴァンパイアの震え)、邦題「催淫吸血鬼」>
1、2作目とは異なる趣向を凝らしたローランの放つ吸血鬼映画路線第三作目の傑作。
<ローランの手掛けてきた作品中、本来の吸血鬼と近い特徴を持つ最初の作品。>
十字架信仰を恐れ、太陽光を浴びることを避けるなど、古典的な吸血鬼の約束事を守り、
尚且つ斬新・奇抜な趣向を凝らした演出効果が続々登場する一編。
ヒッピー・ムーブメントを背景としたサイケデリック・ブームを取り入れ、耽美的な視点から美を追求する。
ミストやスモークを併用し、独特の照明効果に美しい夜を彩どる視覚的なライトモチーフ、
幻想的な装飾が施された異様なムードの漂う美術セットも素晴らしく、不思議な陶酔感が味わえる。
新婚旅行の最中、新郎アントワーヌと新婦イーズの二人は、イーズの従兄弟が住む古城を訪れる。
が、城に向かう途中、道で出会った一人の女性から衝撃的な話を聞かされたばかりだった。
従兄弟は既に亡くなっている、ということだったらしい。イーズは、まだ半信半疑の状態だった。
城に到着した二人を出迎えたのは、奇妙な雰囲気を持つ黒髪の少女と金髪の少女(下女)だった。
彼女達の話によると、従兄弟のヘルマンとウィリアムは、イーズに会うことを楽しみにしているらしい。
二人は別々の部屋へと案内された。それはある儀式のため、周到に用意された巧妙な罠であった...。
幻想と退廃と官能が交錯するアーティスティックなエロスを追求し、吸血鬼の内面世界を象徴的、
かつ寓意的に表現した快心の1本で、アヴァンギャルドな精神が奇妙に融合した作風となっている。
<以下、ネタバレ含む。>
目まぐるしく変化する奇妙なアングルショットを始め、絵画的構図を意識した斬新なカメラワーク、
派手な原色や蛍光色を多用したサイケデリックな映像、ダダ・シュルレアリスムの流れを汲む、
超現実的な視覚世界、そして人間の内面に潜む本能的な欲望と狂気に焦点を当てて描いた作品。
奇妙な気怠さが漂う不思議な雰囲気の中、元吸血鬼ハンターだったヘルマン(ミシェル・デラアエ)と、
ウィリアム(ジャック・ロビオレ)は、文学的知識を披露する。奇妙な理屈を主張する変態哲学を語る。
愛人を共有するほど実に偏執的な関係に置かれたコンビであり、兄弟の絆は深いものだった。
金髪のヘルマンを演じたミシェル・デラアエは、前作で崇高なミュータントを好演した役者である。
今回は、1960年代後半から70年代前半の時期を象徴するフリー・セックスの提唱者として、
特異でユニークなヒッピー・ヴァンパイア(吸血鬼)という人物(キャラ)を見事に怪演している。
兄弟二人の愛人だったイザベル(ニコール・ナンセル)は、冒頭シーンの女性である。
軈て城におびき寄せられ、レズビアン・ヴァンパイアのイゾルド(ドミニク)に惨殺されてしまう。
先の尖ったニップルカバーで、抱きつき瞬殺する奇怪な美とエロスに彩られた衝撃的シーン。
城の周囲を変幻自在に徘徊する悪の親玉、女吸血鬼イゾルド。
従兄弟を吸血鬼にした張本人で、吸血鬼城を仕切る女主人で、尚且つ狡猾な策士家である。
常に冷淡な態度を崩すことなく、目的の為には手段を選ばない冷酷非情で、好戦的な性質だ。
イゾルドがイーズに接触する際、意外な場所から、驚くべき方法を使い、神出鬼没に出現する、
という数々のシーンは、ローランの豊かな発想力、ユニークな着眼点、独自の表現力と言える。
本作で映画デビューを飾ったイーズ役サンドラ・ジュリアンの一際輝く星のような美しさ。
ウエディングドレス姿で古城を歩く初登場シーンの退廃的な美貌と妖艶な雰囲気に魅せられる。
本編では、官能的な彼女の美しい裸体を惜しげもなく披露している。光る原石として、
彼女を見出したローランの巧みな演出が光る。<ジェス&ミランダのコンビを彷彿とさせる。>
寝室や墓場で、イーズがイゾルドに吸血される情景は、幻想絵画的な美しさを湛えている。
特筆すべきは、全裸姿のジュリアンの背中が、大きく仰け反るシーンの超絶美麗な描写である。
ローランお気に入りの(双子の女優の一人)マリー=ピエール・カステルも下女役として登場する。
箸休め的なポジションだが、インパクトは割と強い。本編では、最後の最後まで予断を許さない、
というストーリー展開の鍵となるキャラを妖しく演じており、全裸のレズシーンまで披露している。
新婚であるにもかかわらず、妻との初夜を邪魔され、愛情までも奪われた挙句、最終的には、
妻を寝取られてしまうという悲惨な役回りだったアントワーヌを演じたジャン=マリー・デュラン。
濃いキャラに終始翻弄されっぱなしであったが、下女に知恵をつけた現実主義者だった。
が、宿命的呪縛から逃れられず、愛の破局、愛の崩壊、愛の犠牲となり、絶望感に打ちのめされ、
海辺で絶叫するラストシーンは秀逸だ。従来の怪奇映画と一線を画す独特の世界を作り上げた、
ローランの手腕が冴え渡る珠玉の傑作に仕上がっている。
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